tetraの外部記憶箱

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2007-11-03

_ [books] 『迷惑な進化―病気の遺伝子はどこから来たのか』 シャロン・モアレム

帯のちょっと困ったような著者の顔にひかれて買った本。面白くて、一気に読んでしまった。

著者のモアレムは、新進気鋭の進化医学研究者。祖父がアルツハイマー病と診断されたのをきっかけに医学研究の道に進む。その祖父は、献血が好きだったという。それをヒントに、祖父が「ヘモクロマトーシス」という体の中に鉄が蓄積してしまう遺伝病であり、献血のたびに鉄を捨てたがっていたのではないかと考えた。その後、著者は大学へ進み、たしかにヘモクロマトーシスとある種のアルツハイマー病には関連性があることを発見した。そして、著者自身もその遺伝子を受け継いでいることがわかる・・・。

ここから先の発想がなんとも研究者らしい。

血液検査を受けると案の定、陽性だった。そのときの僕の頭の中には、さまざまな疑問が渦巻いていた。これから僕はどうなるんだろう?なんでヘモクロマトーシスなんかになったんだろう?そして最大の疑問―なぜこんな、体によくない病気の遺伝子がこれほど多くの人に受け継がれてしまったんだろう?そもそも進化とは、有害な遺伝子を淘汰し、役に立つ遺伝子だけを残すもののはず。なのになぜ、こんな遺伝子が生き残っているんだろう?

実は、ヘモクロマトーシスの患者のマクロファージには鉄を含まないために病原細菌に鉄を与える事が無く、普通の人のマクロファージよりも強力であること、そして、14世紀以降、ヨーロッパで繰り返し発生したペストの流行を、ヘモクロマトーシス保有者とその子孫はくぐりぬけ、ヨーロッパの人口に占める割合を200年かけてふやしていったのではないかという仮説にたどり着く。

他にも、糖尿病と氷河期の関係、ソラマメ中毒などな、実は病気の原因遺伝子がさまざまな環境変化を生き延びるために選択された結果なのではないかという例が数多く紹介されていて、なかなか興味深い。

後半では、こうした進化がどのように引き起こされるのかについて、最近の分子生物学の研究成果を取り入れつつ紹介している。とりわけ、トランスポゾンやレトロトランスポゾンなどのジャンピング遺伝子と進化の関係、DNAのメチル化などのエピジェネティクスの話題などは、今、もっとも盛んに研究が行われている分野だが、非常にわかりやすく解説してくれている。

全般的には、モーガンの「水生類人猿説」など話題性があるがちょっと眉唾ものの仮説も紹介されていたりするが、そうした点に気をつければ、最近の遺伝医学について知ることができる一冊となっている。

迷惑な進化―病気の遺伝子はどこから来たのか
シャロン・モアレム ジョナサン・プリンス 矢野 真千子

迷惑な進化―病気の遺伝子はどこから来たのか
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