2008-02-24
_ [books] 速水健朗著『自分探しが止まらない』
自分探しが止まらない (ソフトバンク新書 64)
速水 健朗
ソフトバンククリエイティブ 2008-02-16
売り上げランキング : 487
おすすめ平均 タイトルの印象よりはまともな本です。
「自分探しがとまらない」若者達のデータを集めた部分は秀逸
Amazonで詳しく見る by G-Tools
昨今、どこの書店へ行っても「自己啓発書」が、一番目立つ位置に平積みにされている。これだけ書店に平積みされているということは、それだけ良く売れるということだろう。
本書では、そのような「自分探し」や「自己啓発」が流行るようになった歴史的経緯や時代背景を、実に丹念に調べ上げた労作である。普通に通読しても面白いが、「資料」としても価値があるだろう。
「自分探し」や「自己啓発」の流行は、そのルーツは古いものの、明らかに「バブル世代」と「団塊ジュニア世代」との間に隔たりがある。1980〜1990年代に社会人となった、いわゆる「バブル世代」は、消費によって自己実現を果たすことが出来た世代であり、年収やルックス、職業、学歴がものを言った世代だった。(本書で定義するところの「ねるとん」世代)
ところが、2000年代に社会人となった「団塊ジュニア世代」は、バブル崩壊とともに、そうした旧来の価値観がすべで崩壊し、「消費主義」を嫌悪さえするようになった。(「あいのり」世代)そうした社会的環境下であったからこそ、「自己啓発ビジネス」の付け入る隙が出来たのであろう。
書店に並んでいる、いわゆる「自己啓発本」は、大方は似通った内容のものが多い。
それもそのはず、本書によると、それらの成功哲学やマーフィーの法則などの思想のルーツは、「ニューソート」と呼ばれる19世紀に生まれた運動で、クィンビーという心理療法家にたどり着くのだそうだ。このニューソート運動が「ポジティブ・シンキング」の考え方を生み出し、それを世に広めたのがナポレオン・ヒルやカーネギーなどの「成功哲学本」である。今、世の中に流通している大方の「自己啓発本」は、これらの焼き直しに過ぎない。(ちなみに、最近、エンジニアを中心に流行している「ライフ・ハック」運動も、この流れを汲むものだとの事)
本書では、こうした流行を上手い具合に利用し、ビジネス(というより“喰い物”)にしている人々も、実名を挙げて具体的に紹介している。
ちなみに、僕はあまり「自己啓発本」は好きではない。そもそも、あれこれポジティブになろうと「自己啓発書」を読んでいる暇があったら、実務的な能力を高めるために、一冊でも多く「実用書」を読んで技術や知識の習得に精を出したほうが、ずっと有益であると考えているからだ。
「ポジティブ・シンキング」にしても「ライフ・ハック」にしても、それは仕事を進める上での一つの「手段」(道具)に過ぎない。肝心なのは「手段」よりも「目的」の方である。ところが、これらの本は、より重要な「目的」については何一つ教えてくれない。それもそのはず、こればかりは各個人によってケースバイケースであり、自分の頭でで考えるしかないからだ。
「自己啓発本」を読めば、一時的な精神の高揚は得られるのかもしれないが、そこに紹介されている思考方法を実行できずに自己嫌悪に陥り、再び新しい「自己啓発本」に手を出す・・・という悪循環に陥るのがオチかと思う。さらには、「手段」が「目的」と化してしまう(要するに、「何のために仕事をするのか?」よりも、「ポジティブに仕事をするには?」が目的となる)危険性をはらんでいる事にも、十分注意する必要がある。
結局、参考にするのは良いけれど、ただ妄信・信仰するのではなく、「自分の頭で考える」というプロセスが何よりも大切なんじゃないかと、僕は思うのだ。また、あまり仕事を真面目に考え過ぎない方が良いんじゃないかと。無理に「ポジティブ」になろうとせず、適度に割り切って考えないと身が持たない。日向はかならず影を伴う。僕は「ネガティブ」も、人間としての感情の重要な一面だと思うのだけねぇ。
それから、本書を読んでいてもう一つ思ったのは、「自己啓発」をビジネスに結びつけた者が、一番の勝ち組だね。おいらも、自己啓発本を書こうかしらん(笑)