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2008-02-27

_ [books] 梅田望夫『ウェブ時代をゆく』

ウェブ時代をゆく ─いかに働き、いかに学ぶか (ちくま新書 687)
梅田 望夫

ウェブ時代をゆく ─いかに働き、いかに学ぶか (ちくま新書 687)
筑摩書房 2007-11-06
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star「高く険しい道」と「けものみち」の違いについて

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いまさらながら、モッチー先生の最新刊を読了。

ベストセラー『ウェブ進化論』が「大変化の時代」を啓示したのに対して、こちらの新刊は、その「大変化の時代」をいかにして生きてゆくかを説いている。

ネット上に「学習の高速道路」が出現した結果、「対象をどれだけ好きなのか」「対象にどれだけ没頭できるのか」というシンプルな競争原理による世界が出現し、「やる気のある人ならどこまでも伸びていける自由な環境が生まれた」というのが、氏の主張だ。また、「学習の高速道路」を走り抜けた先には「大渋滞」があり、そこから先は、専門性を高める「高く険しい道」を行くか、もしくは高速道路降りて、身に着けた専門性を活かしつつも「なんでもあり」の「けものみち」を行くという方法があると主張している。

確かに、ネットの出現により、新しい情報や知識を得るのは恐ろしく容易になった。僕自身も、大学では勉強していない分野についての知識を新たに得るために、大いにネットの力が役に立った経験を持つ。ただし、分野によっては「学習の高速道路」が存在するものと、そうでないものがあるように思うのだ。

例えば、分子生物学の研究分野では、ネット上に「学習の高速道路」は存在しないと言ってよい。実験技術にしても、未だにマニュアル化の難しい部分が多々あり、ちゃんと師匠について自分の手を動かして学ばないと、まずもって学習できない。(そもそも、大学や企業など何らかの「組織」に所属していない限り、実験環境を整えるのさえ容易ではない)

要するに、世の中には「高速道路」が整備された分野と、され得ない分野の2種類が存在するんじゃなかろうか。

そして問題なのは、前者の「高速道路」が整備された分野は、入り口の障壁が比較的低いため参入者が多く、グローバル化が極度に発達した現代では、地球規模での苛烈な競争にさらされているという点だ。要するに、「学習の高速道路」が整備されているという事は、氏が主張するほどハッピーな世界じゃないかもしれない。常に「グローバルなコスト競争」にさらされ、技術のコモディティ化に怯えつつ、なおかつ正規雇用さえも保証されない、しかも学習しつづける事を強要されるという、なんとも息が詰まりそうな世界が待っているかもしれないのだ。そこから、さらに「けものみち」へ入れなんて、個人がこれ以上のリスクを背負えとでもいうのだろうか?

例えばIT産業。プログラミング技術の習得は、他分野と比較すると割と「高速道路」が整備された分野じゃないかと思う。ところが現在、SIベンダーは、中国など人件費が極端に安い国との間で、激しいコスト競争にさらされている。中国人は日本語を学び、「高速道路」をひた走ってこの分野に参入し、そして日本人の5分の1くらいの人件費で猛烈に働いているのだ。日本人のシステムエンジニアにとっては、これは、たまったものじゃない。最近、学生の間でIT産業への就職が敬遠されているらしいが、優秀な学生たちは、こうした現状をすばやく察知しての事であろう。

この様な「グローバル化社会」を念頭に入れるとすれば、個人が取れる最も有効な戦略は、「グローバル化」が難しくかつ「学習の高速道路」の整備が容易ではない分野に突き進む事である。では、具体的に・・・と問われると、僕もきっちりとした答えは出せないのだけれど。

フラット化する世界 [増補改訂版] (上)
トーマス フリードマン 伏見 威蕃
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