tetraの外部記憶箱

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2009-05-31

_ [books] 天空の舟―小説・伊尹伝

最近、また宮城谷昌光の小説をぼちぼち読み進めている。

僕が初めて「宮城谷文学」に触れたのは、高校生の時だった。

元々、三国志好きが高じて中国古代史に興味を持つようになり、陳舜臣の『小説十八史略』を読み終わり、やがて宮城谷昌光の『重耳』を手にするのは、ある意味、必然であったと言えよう。

しかし、高校生の僕には「宮城谷文学」は、難解過ぎた。

なぜなら、我々、現代日本人には馴染みの薄い春秋戦国時代の人物名や、他では目にすることの無い難しい漢語が、次から次へと出てくるのだ。おまけに、筆者が本当に伝えたいメッセージを受け取るには、如何せん人生経験が余りに少なすぎた。一応、最後まで目は通したが、記憶に乏しい。

再び『宮城谷文学』に触れたのは、ほんの3年前に読んだ『香乱記』だ。爾来、『管仲』『楽毅』、そして最近になって『子産』などを読み、ようやくその面白さを理解できるようになった。

今、読み進めているのは『天空の舟』という物語で、宮城谷昌光の小説としては、かなり初期の作品に当たる。時代は商(殷)王朝の前の夏王朝末期、料理人から身を立て、やがて商王朝の成立に尽力した伊尹の人生を描いた物語だ。

まだ漢字の存在しない時代であるため、資料と言っても、わずかに甲骨文と金文くらいしか無いらしい。したがって、必然的に足らない部分は、筆者の想像で補うより他に無い。しかし氏は、古代のたおやかな雰囲気を、実に瑞々しい筆致で描き出すことに成功している。(それに比べると、氏の近年の作品の筆致は、やや硬すぎるように思われるが・・・)

氏の選ぶ主人公は、日本ではマイナーな人物が多い。しかし、いずれも誠実であり、芯の強い心を持ち、知恵に富む人物ばかりで、作品を読むと心が颯爽として実に心地よい。さらに人生経験を積んだ後に読み直したら、きっとまた違う印象を持つのだろうなぁー。