tetraの外部記憶箱

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2009-07-08

_ [books][history] 塩野七生著『海の都の物語〜ヴェネツィア共和国の一千年』

『ローマ人の物語』で有名な塩野七生さんの『海の都の物語〜ヴェネツィア共和国の一千年』が、新潮文庫から前6巻として出版された。これがスゲー面白くって、一気に読み終えてしまった。

ヴェネツィアといえば、2年前の冬のイタリア旅行で訪れた街の一つだ。

真っ青な空の下、ゴンドラに揺られ、アコーディオンの音色とグラサン爺さんの美声に酔いしれながら、ヴェネツィアの街を二分する大運河(カナル・グランデ)を悠々と観覧した事は、飛び切りに楽しい思い出となった。

しかし、干潟にできたこんなちっぽけな島が、どうして栄えることができたのだろう、という疑問が心に引っかかっていたのだが、本書を読んでこの疑問が氷解した。

ヴェネツィアの街は、ローマ帝国滅亡後、蛮族に追い立てられ、干潟に逃げ込んだ人々が作った都市国家としてスタートする。その後、徹底的なリアリズムと、卓越した外交力と海軍力により、ヴェネツィアは地中海の覇者となってゆく。

とにかく、その現実主義っぷりが凄まじい。

とりわけ面白いのが、第4次十字軍のエピソードだ。本来、イスラム勢力を攻めるために結成された十字軍を、実にたくみに利用し、同じキリスト教国であるはずのビザンチン帝国の首都・コンスタンティノープルを征服してしまう。

政治の面でも実に特筆すべきことに、16世紀の西欧諸国で吹き荒れた当時、ヴェネツィアだけは魔女狩りや異端裁判といった狂気からも逃れ、言論の自由もある程度保障され、自由と繁栄を謳歌することができたという。

そんなヴェネツィアも、トルコやイギリス、オランダなど、周囲の新興国に押されて交易拠点を失い、競争力も衰え、やがて衰退の一途をたどる。非武装中立を唱えつつもナポレオン率いるフランス軍に攻め込まれ、なすすべもなく1797年にヴェネツィア共和国は滅亡してしまう。

日本も資源が少ない国であり、加工貿易を営んでいる点など、ヴェネツィア共和国と共通する点が多い。おまけに、人件費の高さに悩まされ、格差が固定化し、外国に押されてゆくところも、ヴェネツィアの衰退期にそっくりなように思えてならない

最後に、印象に残った一節。

「現実主義者が誤りを犯すのは、往々にして相手も自分たちと同じように考えると思いこみ、それゆえに馬鹿な真似はしないにちがいない、と判断した時である。ヴェネツィアはこの度の戦いで、彼らが八百年もの間築き上げてきたものを全て失った」―――ニッコロ・マキャベリ(1469-1527)

海の都の物語 1 ヴェネツィア共和国の一千年 海の都の物語 2 ヴェネツィア共和国の一千年 海の都の物語 3 ヴェネツィア共和国の一千年 海の都の物語 4―ヴェネツィア共和国の一千年 海の都の物語 5―ヴェネツィア共和国の一千年 海の都の物語 6―ヴェネツィア共和国の一千年