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2009-07-19

_ [books] 橘玲著『 貧乏はお金持ち──「雇われない生き方」で格差社会を逆転する』

貧乏はお金持ち──「雇われない生き方」で格差社会を逆転する
橘 玲
講談社 ( 2009-06-04 )
ISBN: 9784062153584
おすすめ度:アマゾンおすすめ度

橘玲氏の最新刊。

前半は、なぜ「格差社会」が生じてしまったのかという点について、後半は、では、どうやってこの状況を切り抜けるのかという点について書かれている。

まず、「格差社会」すなわち、若者が正社員になれず、非正規雇用が増えている点について。

その原因は、日本特有の雇用習慣である「終身雇用制度」と「年功序列制度」に求められる。氏は、それを満員の映画館に喩えている。

1990年代以降の日本社会は、この満員の映画館のようになってしまったからだ。より正確にいえば、この映画館はすこしずつ縮んでいて、出口付近でしがみついていたひとが次々と外へ押し出されていく。そしてたいていの場合、上映されている映画はものすごくつまらない。顧客の目的は映画を楽しむことではなく、映画館の中にとどまることにあるからだ。

映画館の中にいるひとたちは、ただ座っているだけで実質所得が増えていく。だがそのことによって映画館自体は縮んでいくから、出口付近でしがみついているひとたちが外に押し出されてしまう。この歪みはとくに若手社員や下請け企業の労働者に顕著で、サービス残業や過酷なノルマで擦り切れていく。

その一方で、この仕組みでは、映画館の外で待つひとたちが中に入る道は完全に閉ざされている。いかに居心地が悪くても、忍耐が金銭に交換されるのだから、席を明け渡そうという酔狂な観客などいるはずもない。

「年功序列」は、一種の「ネズミ講」のようなものだ。ぶっちゃけて言えば、若いときは安い賃金で馬車馬の様に働かせ、高齢になったら若いときの「掛け金」に利子を付けてお返ししますよ、というものであり、組織が拡大し続けなければ、原理的にこの「ネズミ講」は破綻してしまう。

この問題を解決するには、政策的には日本の強固な雇用規制を撤廃して雇用の流動化を促し、年齢によって賃金が決まる差別的な体系ではなく、労働内容によって決まる賃金体系、すなわち「同一労働同一賃金」へ移行するしかない。これは、国際労働機関(ILO)の憲章の全文にも挙げられており、国際的には「基本的人権の一つ」とされている。

しかしながら、こういう事実が分かっていても、政治的に解決される事は、まずないだろう。たとえ、民主党政権になっても。というのも、民主党の支持基盤は連合、すなわち全大手企業の「労働組合」であるからだ。彼らは、先の喩えで言うならば「映画館の中にいるひと」であり、「席を明け渡そうという酔狂な観客」などいるわけがない。(事実、「製造業派遣禁止」などという真逆の規制強化へ舵を取ろうとしているようだ)

政治的な解決が図れないとなれば、個人的に取れる防衛策となれば、自分自身でマイクロ法人化してしまうことだ、というのが氏の主張。法人化することで、会社に縛られず、正社員では気づかなかった税金のコストが顕在化する・・・という事で、会計や節税などのファイナンス手法を伝授してくれる。

もっとも、実際の所、会社に縛られない「自由」な生き方など、本当は多くのひとは望んではいのかもしれない。自己責任が求められる自由人であるよりも、自由が制限されても会社が面倒を見てくれる奴隷(=社畜)の方が楽だ。

だが、このまま日本の雇用状況が変化しなければ、早晩、終身雇用体系が破綻し、とりわけ専門性の高い職種が一挙にフリーエイジェント化する・・・という流れも、考えられなくはない。その備えとして、今のうちから「会計力」を付けておく事は、あながち悪い事ではなかろう。